対向ターゲット式スパッタ(FTS)法

磁性薄膜を薄い領域でも高品質に作製する技術として対向ターゲット式スパッタ法をオリジナルな技術として開発してきました.

これは2枚のターゲットを向かい合わせて同時に陰極として動作させ,ターゲット面に垂直に加えた磁場と2枚のターゲットの 陰極降下部で高密度プラズマを閉じ込める方法です.

これを利用して種々の磁性薄膜や機能性酸化物膜などを作製してきました.

最近は,この成膜技術を用いて,伝導電子が完全にスピン偏極した強磁性材料「ハーフメタル強磁性体」や永久磁石薄膜などを作製しています.

また,応力形成が機能的な薄膜の形成に重要であることがわかりましたので, これをさらに推し進め,薄膜の厚みが数原子層の非常に薄い領域の内部応力を, スパッタ成膜中にリアルタイムで観測できるシステムを開発しました.

現在,このシステムを用いて,薄膜の成長初期過程の解析や,最先端の磁気記録材料の開発を行っています.

次世代情報ストレージ・メモリの開発

応力アシスト磁化反転とピエゾエレクトロニック磁気抵抗デバイス

MRAMは,磁化反転動作時に非常に多くの電力を消費するため,不揮発性による消費電力削減効果は未だ限定的です.また,この消費電力を下げるために磁化反転に対するエネルギー障壁を低減させると, 今度は磁化の熱擾乱耐性が損なわれてしまいます. そこで,我々の研究室では,磁化反転の時にのみ,ピエゾ効果と逆磁歪効果を利用してエネルギーバリアを一時的に低減させる応力アシスト反転磁化反転(SAMR)を考案しました. さらに,高効率に圧力を印加でき,集積可能なピエゾエレクトロニック磁気抵抗デバイス構造を他の研究室と共同で提案しました. また,本デバイスに必要となる垂直磁化した超磁歪材料の開発や,シミュレーションを用いたSAMRの消費電力削減効果の評価を行っています.

超伝導とスピンの相互作用を利用した超低損失不揮発性メモリ

強磁性はスピンの向きを揃えさせる性質ですが、超伝導のクーパー対はスピンの向きが逆向きの電子で構成されます.このように相反する性質を持つ2つの材料を接合すると、その界面では非常に面白い現象が起きます. このような現象は工業的にも利用可能で特に近年の量子コンピュータ技術の発展により、極低温で電子デバイスを動作させることが現実的となってきました. 中川研究室で、超伝導の持つ無損失性とスピンの持つ不揮発性を利用して、超低損失なメモリの実現を目指しています. また、超伝導と強磁性体の界面で生じる現象を利用して、スピントロニクス材料の伝導電子のスピン分極率の評価の開発も行っています.

3次元磁気メモリのための磁性材料の開発

現在の情報化社会は、SSD(Solid-state disc)やHDD(Hard disk drive)などの情報ストレージ技術により支えられています.今後人類が生み出す情報量は指数関数的に増えており、より大容量で高速動作可能な情報ストレージ技術の開発が求められています. 現在、JST-CRESTプロジェクトでは新規情報ストレージ・メモリとして、3次元磁気メモリの研究開発が行われており、中川研も参加しています.

このメモリは、最近発見されたスピントロニクスの現象である、電流をナノサイズの磁石に流すとS/Nの境目が動く電流駆動磁壁移動現象を利用したものです. もはや今の学生さんは使ったことがない可能性が高いカセットテープでは、テープの上に塗布された微小磁性粒子の磁化のS/Nの向きを、テープを動かすことで読み取りセンサーの上まで動かし、磁気の情報を次々と読み取っていました. この3次元磁気メモリは、「駆動部分がない磁気テープ」です. 中川研究室ではこれまで蓄積した磁性薄膜の蓄積を活かし、この3次元磁気メモリの磁性層の唯一の作製方法と考えられる電解めっき法を利用してスピントロニクス薄膜の研究を行っています.

次世代パワーマグネティックス材料の開発

高周波パワーマグネティックス用ナノグラニュラー薄膜の研究

パワーエレクトロニクス回路はスイッチング周波数を高めることで性能向上・小型化が行われています.この高周波化は、SiCやGaNなどのワイドギャップ半導体の登場により劇的に進みました. 現在、高周波化のボトルネックはインダクタに用いられる軟磁性材料となってしまい、新規材料の開発は喫緊の課題です.

当研究室では、高周波化に有利な集積回路技術で作製するインダクタに用いられる磁性材料として、対向ターゲット式スパッタ法で作製するナノグラニュラー材料の研究開発を行っています. ナノグラニュラー材料とは電気絶縁体中にナノサイズの磁性粒子が分散した材料で、高周波動作させても渦電流による損失が小さい材料です. 対向ターゲット式スパッタ法で大きな誘導磁気異方性を付与し、優れた軟磁気特性を有するナノグラニューラー薄膜を実現しています.

PwrSoC向け集積インダクタの開発

全てのパワーエレクトロニクス回路をワンチップ上に実現するPwrSoC(Power Supply on Chip) に対応するインダクタとして,半導体作製プロセスを用いた高周波インダクタの研究を行っています. 対向ターゲット式スパッタで形成したナノグラニュラー薄膜を導入し,デバイス特性への効果を調べています.

次世代熱電発電材料薄膜

RTAによる合金化手法を用いたFe系ホイスラー合金の探索

ホイスラー合金薄膜はスピントロニクス材料として長年中川研究室では研究してきました. 近年、Feをベースにしたホイスラー合金薄膜が優れた熱電性能を有する材料として注目されております. Rapid thermal alloying法といったバルクと同程度の超高品質なホイスラー合金薄膜の技術をFe系ホイスラー合金薄膜に適用し、さらに高性能な熱電ホイスラー合金の形成を目指しています. 他の研究室とも連携し、デバイス化(つまり熱電発電装置)を見据えて、研究を行っています.