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だれでも小さい頃に磁石で遊んだ経験があると思います。小学校の教科書にも紹介されていますし,私は磁石やモーターを組み込んだおもちゃや模型が大好きでした。

学年が進んで「理科」や「物理」で磁石や磁場の話がいろいろと出てきたはずなので,磁石と聞くと「もう磁石のことは小さい頃から知っているんだからわかっているよ。なにをいまさら...」という気持ちになる人もいるかもしれません。でも,現象を「知っている」ので,磁石のことが「わかっている」かというと必ずしもそうは言えないはずです。

もっと幼いときに感じたはずの,なぜ磁石どうしは引き寄せたり反発したりするのか,なぜ磁石になる物質とならない物質があるのか,永久磁石の磁界を発生させる電流があるとすればなぜそれは減衰しないのか, ...などに皆さんはすぐに答えられますか?

物性の基礎となる量子論の証明として原子で起きる現象が理解され,原子が数え切れないほど集まって作ったマクロな固体や液体の物性がその統計として現した性質を応用したのが20世紀の科学と思います。

また,磁石の元になっている電子の角運動量であるスピンのことは聞いたことがあると思います。でも「知っている」こととそれを「理解して応用する」ようになることは少し違うステージのようです。

電子の流れにスピンの効果が大きな影響をおよぼすことが実証され,デバイス応用の道が拓かれることで実現した「スピンエレクトロニクス」の世界が現実のものになってきたのはここ数年の話です。まだまだ磁性材料の特性には謎や未知のことがたくさんあります。

また,ごくありふれた物質が,その作製法や加工技術の進展さえあればデバイスとして応用可能となるような素晴らしい現象を示す状況もたくさんあるはずです。少し話は難しく感じるかもしれませんが,その根拠の一つをお話します。

逆にいえばこれまで我々は原子という「電子の天然の入れ物」でしか量子効果が発現するサイズのものを手に入れることができなかったといえるでしょう。

しかし,近年,原子が数十個から数万個といった単位で構成される人工物に関する科学であるメゾスコピックと呼ばれる領域が開拓され,またその人工物自体やナノサイズ人工物を作製する技術であるナノテクノロジーを我々は手に入れつつあります。

そこでは今までせいぜいミクロンサイズ程度の大きさの容器か,あるいは一気に飛んでオングストロームサイズの「原子の容器」にしか入れられていなかった電子が,新しい「ナノサイズの容器」の中で解き放たれて,新たな物性を示す可能性がたくさん転がっているはずなのです。

当研究室ではおもに磁性つまり磁石の性質を持つ材料を中心とした様々な電子材料を,どのように薄膜にしたりナノサイズに加工したりするかということを行っています。

また,そのように薄膜やナノサイズの電子材料が発現する多様で新しい機能をどのようにうまく引き出すかということを行っています。またその有用な機能を生かした新規なデバイスの提案・開発も行っています。

電子材料の持つ新しい特性の探索や,新たな作製・加工技術の開発を通して,今後増えてくるであろう様々な新しい現象を「子供の時のような好奇心で受け止め,理解して応用できる力」をつけたいものと考えています。